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2026

〜巧より強たれ〜『数秒に懸ける』綿引 匠

右膝をつく。

クロスを置いて、右手でヘッドを少し弾ませる。

頭の中で、クランプの軌道をなぞる。

あとは、笛だけを待つ。


一本の勝負は、数秒で決まる。


その数秒に、4年間を懸けてきた。



入学前、インスタのリールでたまたまラクロスの動画が流れてきて、なんとなく新歓に行った。

体験会には、1年生とは思えないほどでかい和毅がいた。初対面なのに「一般?推薦?」と聞いてくる隼平がいた。なんだこいつ、と思った。同じ理工で、すでにめちゃくちゃ上手い航志がいた。すげえ、と思った。

みんな面白そうだった。

先輩に乗せられて、なんとなく入部を決めた。

なんとなく始めた4年間が、こんなに濃いものになるとは思っていなかった。



FOも、最初はなんとなく始めた。

りんたさんに勧められて、1年の頃からなんとなくやっていた。

サマーは、フィールドで自分の強みを見つけられずにβ。

ウィンターは出場時間0秒。

それでも2年のあすなろ直前、なんとなく調子が良くて、隼平と2枚回しで戦えることになった。

本当に嬉しかった。


そして試合当日。

防具を全部、山手線に置いてくるという失態。

その場で借りた防具で試合に出て、いつも通りのプレーができるはずもなく、出られたのは予選だけ。

決勝でチームが負けるのを、ボックスから眺めていた。

悔しいという感情すらなかった。

ただ、ああ、終わってしまったなと思った。


完全な準備不足だった。


でも、この時の自分は、まだ準備の大切さを分かっていなかった。



3年の春は、ほぼ毎日1限から5限まで授業があった。

4年になれば部活に専念できると思っていたら、今度は研究室だった。一日中実験があり、練習に参加できない日も増えた。

それでも、4年になればAで出られると思っていた。

実際、Aにいた時期は数ヶ月あった。

でも夏合宿の前、Bに落ちた。

試合で、自分が出したかったものを出せなかった。

練習に参加できなかったとか、研究室が忙しかったとか、理由を挙げることはできる。

でも、結果を出せなかったという事実は変わらない。


落ちたのは当然だった。


また、準備が足りなかった。


悔しかった。


結局、自分はまだAの公式戦に一度も出ていない。


夏合宿が終わってすぐ、今度は院試で1ヶ月部活に行けなくなった。

正直、戻るのは少し怖かった。

でも戻った時、みんなはいつも通り迎えてくれた。

「戻ってくるの待ってる」とLINEしてくれる人がいた。

「おかえり」と言ってくれる人がいた。

1ヶ月いなかったことを、いつも通りいじってくる人がいた。

自分の居場所は残っていた。

その時、強く思った。


このメンバーと勝ちたい。

まだ、このメンバーとラクロスがしたい。


同時に、今年の2月のことを思い出した。

学生コーチを決める学年mtgで、同期が泣きながら話していた。

同じように院試を受ける仲間が、選手を諦めて学生コーチをやると言った。

自分は何も言えなかった。

ただ、同じ立場だからこそ思った。

選手を諦めた人がいる。

怪我でプレーできない人がいる。

続けたくても、続けられなかった人がいる。

その中で、自分はまだクロスを持って、コートに立てている。

なら、その分までやらなければいけない。

選手として、チームに貢献しなければいけない。


いつからか、ラクロスは自分一人のためにやるものではなくなっていた。


誰かの思いを背負ってプレーしている。


あの時に背負ったものが、今も自分を練習に向かわせている。

だから、1回の練習で何を掴むか、何を試すかを、それまで以上に考えるようになった。

何度も動画を見た。

クランプのフォームを変えた。

試して、失敗して、また変えた。

少ない練習時間の中で、一本でも多く意味のあるFOをしようと思った。


4年目の秋。


今、ラクロスが楽しい。


そう思える理由は、たぶんFOというポジションにある。

FOの出番は短い。

笛が鳴ってからヘッドを倒すまで、0コンマ何秒の世界。

その一瞬のために、何度も同じ動きを繰り返す。

数十秒にも満たない一本が、試合の流れを変える。

カズさんが言っていた。


「負けられない場面で、1本取れるかどうか」。


FOは、それが全てだと思う。

フェイスオフの瞬間だけは、観客も含めた全員がコートの真ん中を見る。

その瞬間だけは、自分が主人公になれる。


だから、ギリギリの試合展開で迎えるフェイスオフが一番わくわくする。

滾る。


調子が良い時ほど、「早く点決めて、俺に順番を回せ」と思う。

本当に調子が良い日は、コートの真ん中に立ってから、笛以外の音が聞こえなくなる。

自分だけの世界に入ったような、不思議な感覚になる。

FOは、職人みたいなポジションだ。

一本のために何度も同じ動きを磨く。

そして、その一本で試合を動かす。

「自分が活躍して、チームを勝たせたい」。

そんな自分のエゴに、一番合っていた。

FOを始めて、本当に良かったと思う。


そして、そのFOを4年間やってきて、一番思い知ったことがある。



「準備」だ。

 


前日に荷物を揃えておくこと。

日々、自分の身体を整えておくこと。

いつ呼ばれても、戦える状態でいること。

試合で最大限を出せるように、あらゆる展開を想定しておくこと。


突然自分に出番が回ってきた時。

その一本に、自分の最大限を出せる準備ができているか。


ラクロスは怪我が多い。

FOは調子にも左右される。

だからチャンスは、自分が想像していないタイミングで突然やってくる。

自分は、その準備ができていなかった。

「惜しい」と言われ続けた4年間だった。

「あとちょっとなんだよな」

「もう少しフィールドが良ければ、試合で使えるのに」

ずっと言われ続けた。

その「あとちょっと」を埋めるものが、準備だったのだと思う。

結局、その差を埋め切れないまま、ここまで来てしまった。


ハイキューに、「チャンスは準備された心に降り立つ」という言葉がある。

昔から好きな漫画で、ずっと知っていた言葉だった。

でも、その意味を本当に理解したのは今になってからだった。

分かるのが遅すぎた。

でも、遅すぎたからこそ言えることもある。


自分は怪我も多かった。

練習に参加できた時間も、他の同期と比べれば少なかった。

思うようにプレーできない時期も長かった。

正直、4年間を振り返れば、ラクロスを「楽しい」と思えなかった時間の方が長いかもしれない。


それでも今は、ラクロスをやってきて良かったと心から思う。


今、プレーがうまくいっていない人。

思ったような結果が出なくて、燻っている人。

練習に行くことがしんどい人。

ラクロスが楽しいと思えない人。


チャンスは、本当に思ってもいないタイミングで来る。

だから、その時のために準備をしてほしい。


きつい練習を乗り越える。

ウェイトをする。

自主練をする。

ビデオを見て反省する。

次はこうしよう、と考える。

その積み重ねが、少しずつ自信になる。


「俺を選べ」

「俺を試合に出せ」

「俺ならもっとできる」


そう思えるようになった時、

きっとラクロスは楽しくなっている。


今すぐそう思えなくてもいい。

自分も、そうだった。

でも、続けて、準備して、自分なりにもがいた先に、

「やってきて良かった」と思える瞬間は、きっと来る。


そしてもう一つ。

今、選手としてプレーできていることは、当たり前じゃない。

自分の後ろには、支えてくれる人がいる。

一緒に戦ってくれる仲間がいる。

自分ではプレーできなくても、チームのために動いてくれている人がいる。

続けたくても続けられなかった人もいる。

だから、自分一人のためだけに戦わないでほしい。

背負っているものが増えるほど、一本に妥協できなくなる。

準備にも、妥協できなくなる。



ここからは、少しだけ感謝を。


家族へ。

いつも自分の選択を尊重して、誰よりも応援してくれてありがとう。

疲れているのに、毎朝4時に起こしてしまってごめんなさい。

あと少し、応援よろしくお願いします。

いつか試合も見に来てくれたら嬉しいです。


スタッフ陣。

審判をして、笛を吹いて、練習が円滑に進むように時間管理やパイロンの配置をしてくれるMG。

テーピングを巻いたり、怪我した時にいち早く復帰できるようにリハビリを考えてくれるTR。

試合後すぐにポゼッション率を出してくれたり、遠征をしてスカウティングをしてくれるAS。

特に今年は人数が少ない中で、役職に関係なく全員が笛を吹いてくれて、練習後すぐに動画を上げてくれてありがとう。

自分たちが当たり前のように練習できているのは、みんなのおかげです。

本当にありがとう。


監督、コーチの方々。

休日を返上して、いつも練習に来ていただきありがとうございます。

特にカズさんには、1年生の頃から本当にお世話になりました。

体型とか、似ているところも多くて、ずっと目標にしてきました。

今でも目標です。

引退するまでに、カズさんに勝ち越せるくらい強くなります。

あと少し、ご指導よろしくお願いします。

あとは、結果で恩返しします。


同期。

合宿でいきなり坊主にするやつが何人もいたり、盲腸で部活を休んでいると思ったら、某有名ジムのインスタのストーリーに突然現れて「今日も最高の1日にしましょう」と言ってるやつがいたり。

本当に個性豊かで、一緒にいて楽しいです。

この代で良かったと、心から思います。

みんなと日本一になりたい。

切実に、そう思う。

最高で最強の代だと、証明しよう。


FOのみんな。

自分から何か教えられたかは分からないけど、ここまで一緒にプレーしてくれてありがとう。


けんと。

めちゃくちゃ生意気だけど、誰よりもFOが好きで、ハングリー精神がすごい。

最近、本当に成長を感じます。

FOを好きな気持ちを忘れずに、世界一のFOになってください。


もりた。

2年生とは思えない手元の強さで、いつもFOのことを考えているもりた。

4年生になった時、どれくらい強くなっているのか本当に楽しみです。

FOだけじゃなく、プライベートも頑張ってね。


大津。

去年からBで一緒にプレーしてきて、試合での強さ、グラボ、カウンターの強度には本当に成長させてもらいました。

なんだかんだ仲良しな大津と和田の、来年の活躍が楽しみです。


和田。

去年と今年、多分一緒にプレーした時間が一番長いかな。

手元の強さと「なんかやってくれそう感」はピカイチで、最近の和田の強さには自分もかなり成長させてもらっています。

怪我には気をつけて、頑張れ。

引退したらFO会でラップ披露してね。


りんたさん。

1年生の頃から本当にお世話になりました。

ほぼ同期みたいな感じで仲良くなれて嬉しいです。

というか、同期だし。

普段自信なさげに振る舞っているりんたさんが、全学決勝の1本目でポゼッションを取って吠えている姿が、本当にかっこよかったです。

あの姿を見て、自分も全学という舞台に立ちたいと強く思いました。

Aで試合に出る姿を見せられるように、あと少し、もがきます。


隼平。

世代最強の隼平。

最大の目標であり、ライバルだと思っています。

ラクロスに対する姿勢、特に今シーズン、リーダーとしてFOユニットを引っ張っている姿を本当に尊敬しています。

あと少ししかないけれど、

ボックスに4年二人で入って、一緒に戦う。

その目標はまだ諦めていません。

これからもよろしく。




明日は明治戦。

隙を見せない。

やるべきことをやる。

圧倒する。

勝って一位通過を決めて、Aの成蹊戦に良い流れをつなげよう。

今のBチームは、凌平を中心にみんなで作り上げてきた「強い」チームだ。

だから、特別なことをする必要はない。

俺らは、やるべきことをやるだけ。


ここまでの全部を、この一本に乗せる。


仲間の思いも。

支えてくれた人への感謝も。

出られなかった試合も。

準備が足りなくて掴めなかったチャンスも。

4年間で積み重ねてきたものも。


全部持って、コートに立つ。


そのために、最高の準備を。



右膝をつく。

クロスを置いて、右手でヘッドを少し弾ませる。

頭の中で、クランプの軌道をなぞる。

何度となく繰り返してきた動き。

迷いはない。

あとは、笛だけを待つ。



いざ、強たれ。



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FO #77 綿引匠

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