右膝をつく。
クロスを置いて、右手でヘッドを少し弾ませる。
頭の中で、クランプの軌道をなぞる。
あとは、笛だけを待つ。
一本の勝負は、数秒で決まる。
その数秒に、4年間を懸けてきた。
入学前、インスタのリールでたまたまラクロスの動画が流れてきて、なんとなく新歓に行った。
体験会には、1年生とは思えないほどでかい和毅がいた。初対面なのに「一般?推薦?」と聞いてくる隼平がいた。なんだこいつ、と思った。同じ理工で、すでにめちゃくちゃ上手い航志がいた。すげえ、と思った。
みんな面白そうだった。
先輩に乗せられて、なんとなく入部を決めた。
なんとなく始めた4年間が、こんなに濃いものになるとは思っていなかった。
FOも、最初はなんとなく始めた。
りんたさんに勧められて、1年の頃からなんとなくやっていた。
サマーは、フィールドで自分の強みを見つけられずにβ。
ウィンターは出場時間0秒。
それでも2年のあすなろ直前、なんとなく調子が良くて、隼平と2枚回しで戦えることになった。
本当に嬉しかった。
そして試合当日。
防具を全部、山手線に置いてくるという失態。
その場で借りた防具で試合に出て、いつも通りのプレーができるはずもなく、出られたのは予選だけ。
決勝でチームが負けるのを、ボックスから眺めていた。
悔しいという感情すらなかった。
ただ、ああ、終わってしまったなと思った。
完全な準備不足だった。
でも、この時の自分は、まだ準備の大切さを分かっていなかった。
3年の春は、ほぼ毎日1限から5限まで授業があった。
4年になれば部活に専念できると思っていたら、今度は研究室だった。一日中実験があり、練習に参加できない日も増えた。
それでも、4年になればAで出られると思っていた。
実際、Aにいた時期は数ヶ月あった。
でも夏合宿の前、Bに落ちた。
試合で、自分が出したかったものを出せなかった。
練習に参加できなかったとか、研究室が忙しかったとか、理由を挙げることはできる。
でも、結果を出せなかったという事実は変わらない。
落ちたのは当然だった。
また、準備が足りなかった。
悔しかった。
結局、自分はまだAの公式戦に一度も出ていない。
夏合宿が終わってすぐ、今度は院試で1ヶ月部活に行けなくなった。
正直、戻るのは少し怖かった。
でも戻った時、みんなはいつも通り迎えてくれた。
「戻ってくるの待ってる」とLINEしてくれる人がいた。
「おかえり」と言ってくれる人がいた。
1ヶ月いなかったことを、いつも通りいじってくる人がいた。
自分の居場所は残っていた。
その時、強く思った。
このメンバーと勝ちたい。
まだ、このメンバーとラクロスがしたい。
同時に、今年の2月のことを思い出した。
学生コーチを決める学年mtgで、同期が泣きながら話していた。
同じように院試を受ける仲間が、選手を諦めて学生コーチをやると言った。
自分は何も言えなかった。
ただ、同じ立場だからこそ思った。
選手を諦めた人がいる。
怪我でプレーできない人がいる。
続けたくても、続けられなかった人がいる。
その中で、自分はまだクロスを持って、コートに立てている。
なら、その分までやらなければいけない。
選手として、チームに貢献しなければいけない。
いつからか、ラクロスは自分一人のためにやるものではなくなっていた。
誰かの思いを背負ってプレーしている。
あの時に背負ったものが、今も自分を練習に向かわせている。
だから、1回の練習で何を掴むか、何を試すかを、それまで以上に考えるようになった。
何度も動画を見た。
クランプのフォームを変えた。
試して、失敗して、また変えた。
少ない練習時間の中で、一本でも多く意味のあるFOをしようと思った。
4年目の秋。
今、ラクロスが楽しい。
そう思える理由は、たぶんFOというポジションにある。
FOの出番は短い。
笛が鳴ってからヘッドを倒すまで、0コンマ何秒の世界。
その一瞬のために、何度も同じ動きを繰り返す。
数十秒にも満たない一本が、試合の流れを変える。
カズさんが言っていた。
「負けられない場面で、1本取れるかどうか」。
FOは、それが全てだと思う。
フェイスオフの瞬間だけは、観客も含めた全員がコートの真ん中を見る。
その瞬間だけは、自分が主人公になれる。
だから、ギリギリの試合展開で迎えるフェイスオフが一番わくわくする。
滾る。
調子が良い時ほど、「早く点決めて、俺に順番を回せ」と思う。
本当に調子が良い日は、コートの真ん中に立ってから、笛以外の音が聞こえなくなる。
自分だけの世界に入ったような、不思議な感覚になる。
FOは、職人みたいなポジションだ。
一本のために何度も同じ動きを磨く。
そして、その一本で試合を動かす。
「自分が活躍して、チームを勝たせたい」。
そんな自分のエゴに、一番合っていた。
FOを始めて、本当に良かったと思う。
そして、そのFOを4年間やってきて、一番思い知ったことがある。
「準備」だ。
前日に荷物を揃えておくこと。
日々、自分の身体を整えておくこと。
いつ呼ばれても、戦える状態でいること。
試合で最大限を出せるように、あらゆる展開を想定しておくこと。
突然自分に出番が回ってきた時。
その一本に、自分の最大限を出せる準備ができているか。
ラクロスは怪我が多い。
FOは調子にも左右される。
だからチャンスは、自分が想像していないタイミングで突然やってくる。
自分は、その準備ができていなかった。
「惜しい」と言われ続けた4年間だった。
「あとちょっとなんだよな」
「もう少しフィールドが良ければ、試合で使えるのに」
ずっと言われ続けた。
その「あとちょっと」を埋めるものが、準備だったのだと思う。
結局、その差を埋め切れないまま、ここまで来てしまった。
ハイキューに、「チャンスは準備された心に降り立つ」という言葉がある。
昔から好きな漫画で、ずっと知っていた言葉だった。
でも、その意味を本当に理解したのは今になってからだった。
分かるのが遅すぎた。
でも、遅すぎたからこそ言えることもある。
自分は怪我も多かった。
練習に参加できた時間も、他の同期と比べれば少なかった。
思うようにプレーできない時期も長かった。
正直、4年間を振り返れば、ラクロスを「楽しい」と思えなかった時間の方が長いかもしれない。
それでも今は、ラクロスをやってきて良かったと心から思う。
今、プレーがうまくいっていない人。
思ったような結果が出なくて、燻っている人。
練習に行くことがしんどい人。
ラクロスが楽しいと思えない人。
チャンスは、本当に思ってもいないタイミングで来る。
だから、その時のために準備をしてほしい。
きつい練習を乗り越える。
ウェイトをする。
自主練をする。
ビデオを見て反省する。
次はこうしよう、と考える。
その積み重ねが、少しずつ自信になる。
「俺を選べ」
「俺を試合に出せ」
「俺ならもっとできる」
そう思えるようになった時、
きっとラクロスは楽しくなっている。
今すぐそう思えなくてもいい。
自分も、そうだった。
でも、続けて、準備して、自分なりにもがいた先に、
「やってきて良かった」と思える瞬間は、きっと来る。
そしてもう一つ。
今、選手としてプレーできていることは、当たり前じゃない。
自分の後ろには、支えてくれる人がいる。
一緒に戦ってくれる仲間がいる。
自分ではプレーできなくても、チームのために動いてくれている人がいる。
続けたくても続けられなかった人もいる。
だから、自分一人のためだけに戦わないでほしい。
背負っているものが増えるほど、一本に妥協できなくなる。
準備にも、妥協できなくなる。
ここからは、少しだけ感謝を。
家族へ。
いつも自分の選択を尊重して、誰よりも応援してくれてありがとう。
疲れているのに、毎朝4時に起こしてしまってごめんなさい。
あと少し、応援よろしくお願いします。
いつか試合も見に来てくれたら嬉しいです。
スタッフ陣。
審判をして、笛を吹いて、練習が円滑に進むように時間管理やパイロンの配置をしてくれるMG。
テーピングを巻いたり、怪我した時にいち早く復帰できるようにリハビリを考えてくれるTR。
試合後すぐにポゼッション率を出してくれたり、遠征をしてスカウティングをしてくれるAS。
特に今年は人数が少ない中で、役職に関係なく全員が笛を吹いてくれて、練習後すぐに動画を上げてくれてありがとう。
自分たちが当たり前のように練習できているのは、みんなのおかげです。
本当にありがとう。
監督、コーチの方々。
休日を返上して、いつも練習に来ていただきありがとうございます。
特にカズさんには、1年生の頃から本当にお世話になりました。
体型とか、似ているところも多くて、ずっと目標にしてきました。
今でも目標です。
引退するまでに、カズさんに勝ち越せるくらい強くなります。
あと少し、ご指導よろしくお願いします。
あとは、結果で恩返しします。
同期。
合宿でいきなり坊主にするやつが何人もいたり、盲腸で部活を休んでいると思ったら、某有名ジムのインスタのストーリーに突然現れて「今日も最高の1日にしましょう」と言ってるやつがいたり。
本当に個性豊かで、一緒にいて楽しいです。
この代で良かったと、心から思います。
みんなと日本一になりたい。
切実に、そう思う。
最高で最強の代だと、証明しよう。
FOのみんな。
自分から何か教えられたかは分からないけど、ここまで一緒にプレーしてくれてありがとう。
けんと。
めちゃくちゃ生意気だけど、誰よりもFOが好きで、ハングリー精神がすごい。
最近、本当に成長を感じます。
FOを好きな気持ちを忘れずに、世界一のFOになってください。
もりた。
2年生とは思えない手元の強さで、いつもFOのことを考えているもりた。
4年生になった時、どれくらい強くなっているのか本当に楽しみです。
FOだけじゃなく、プライベートも頑張ってね。
大津。
去年からBで一緒にプレーしてきて、試合での強さ、グラボ、カウンターの強度には本当に成長させてもらいました。
なんだかんだ仲良しな大津と和田の、来年の活躍が楽しみです。
和田。
去年と今年、多分一緒にプレーした時間が一番長いかな。
手元の強さと「なんかやってくれそう感」はピカイチで、最近の和田の強さには自分もかなり成長させてもらっています。
怪我には気をつけて、頑張れ。
引退したらFO会でラップ披露してね。
りんたさん。
1年生の頃から本当にお世話になりました。
ほぼ同期みたいな感じで仲良くなれて嬉しいです。
というか、同期だし。
普段自信なさげに振る舞っているりんたさんが、全学決勝の1本目でポゼッションを取って吠えている姿が、本当にかっこよかったです。
あの姿を見て、自分も全学という舞台に立ちたいと強く思いました。
Aで試合に出る姿を見せられるように、あと少し、もがきます。
隼平。
世代最強の隼平。
最大の目標であり、ライバルだと思っています。
ラクロスに対する姿勢、特に今シーズン、リーダーとしてFOユニットを引っ張っている姿を本当に尊敬しています。
あと少ししかないけれど、
ボックスに4年二人で入って、一緒に戦う。
その目標はまだ諦めていません。
これからもよろしく。
明日は明治戦。
隙を見せない。
やるべきことをやる。
圧倒する。
勝って一位通過を決めて、Aの成蹊戦に良い流れをつなげよう。
今のBチームは、凌平を中心にみんなで作り上げてきた「強い」チームだ。
だから、特別なことをする必要はない。
俺らは、やるべきことをやるだけ。
ここまでの全部を、この一本に乗せる。
仲間の思いも。
支えてくれた人への感謝も。
出られなかった試合も。
準備が足りなくて掴めなかったチャンスも。
4年間で積み重ねてきたものも。
全部持って、コートに立つ。
そのために、最高の準備を。
右膝をつく。
クロスを置いて、右手でヘッドを少し弾ませる。
頭の中で、クランプの軌道をなぞる。
何度となく繰り返してきた動き。
迷いはない。
あとは、笛だけを待つ。
いざ、強たれ。
PULSE
FO #77 綿引匠

