「滾れ」
このスローガンが好きだ。
愛していると言っても過言ではない。
何を隠そう、シーズン当初、自分は心中密かに決意していた。
「今年、誰よりも『滾れ』を体現してやる!」と。
ご存知の通り、自分はとりわけ頭が切れるタイプではないし、安定感抜群と言うわけでもない。
どちらかといえば直感と瞬発力、そしてパッションに突き動かされてきた人間だ。
そんな自分にとって、誰よりも泥臭くアグレッシブにプレーすること、つまり、
「滾れ」を体現することは、まるで使命のように感じられたのだ。
しかし現実はどうだろう。
キックオフ直後、肉離れに出鼻を挫かれ、人生初のリハビリへ。
気付けば遥か先を行く同期や後輩達を見て、ただひたすらに焦っていた。
それでもなんとか復帰して、Aチーム昇格を果たすも、憧れの早慶戦には1分1秒たりとも出ることはできなかった。
理由は明確だ。
自分は、全くもって「滾れ」を体現できていなかったのだ。
怪我を恐れていたのだろうか、それとも、ミスを恐れたのだろうか。
とにかく、グラウンドを縦横無尽に駆け回り、毎試合のように得点に絡んでいた3年生の頃の激しさが、その頃すっかり消えていたのだ。
消沈しきった自分は、その後転落の一途を辿る。
Bチームに降格した。
無理やり出させてもらったプレシーズンでは、何点もの失点に絡んだ。
そして、いつの間にか、心の中で他人の成功を僻み、ミスを笑う最悪な人間になっていた・・・。
しかし、そんな自分を救ってくれたのは、やはり同期のみんなだったと思う。
夏合宿も終わった頃、複数の同期からこう言われた。
「新美、なんか元気なくね?」
その一言をきっかけに、自分は気付かされた。
おれは一体何をしているんだ、と。
Aチームのあいつは、あんなにも早く怪我を治して、試合に臨んでいるのに、
BCチームのあいつらは、リーダーとして絶えずチームをまとめているのに、
スタッフのみんなは、オフを返上してまでチームをサポートしているのに、
周りを見渡せば、こんなにも同期が、自分なりの「滾れ」を体現しているのに、おれは一体何をしているんだ、と。
同期の頑張る姿に、強く鼓舞された。
今からでも遅くない、と自分に言い聞かせることができた。
そしていま、自分はかつての激しさを、そしてパッションを取り戻しつつある。
ならば、今度は自分がみんなを鼓舞する番だろう。
明日がどんな試合であれ、自分のやるべきことはただ一つ、自分なりの「滾れ」を相手に全力でぶつけることだ。
つまり、血湧き肉踊るアツいプレーで、相手を圧倒し、同期を、後輩を、そしてREDBATSを、鼓舞することだ。
滾れ。
DF #15 新美拓郎